2050年にも豚肉が食べたい。
危機に瀕する、世界のそして日本の養豚事情。
はじめまして。Eco-Pork代表の神林です。
Eco-Porkは2017年創業の、いわゆるベンチャー企業です。
私たちは世界的な食料問題の解決を目指し、養豚産業に対してDXソリューションを提供し、養豚を持続可能にしていく活動をしています。
私たちが大好きな豚肉は、世界で40兆円、国内で6,000億円の非常に大きな規模のマーケットと言われています。ところが実は、養豚にはさまざまな課題があります。
たとえばミートショック。たとえばSDGs。
また、日本ではこの20年で、養豚農家数は70%も減ってしまいました。
こだわりを持って豚を育てる多くの生産が「厳しい労働環境」「担い手不足」そして昨今の「飼料高騰」など、さまざまな問題に苦しんでいます。
このような畜産の課題、世界規模の食糧問題から、ガソリン車がEVに代替されていく流れと同じように、リアルな肉から環境負荷の低いとされる培養肉や代替肉に代替していく可能性があります。
Eco-Porkは養豚業界におけるDXを推進することで、健康的で環境負荷の少ない豚の生育を実現してきました。
導入農家では平均で年7%の出荷成績向上という成果を出し、国内約80の生産者が採用、国内シェアは約10%に。これらの取り組みは農林水産省「スマート農業実証プロジェクト」や経済産業省「グローバル・スタートアップ・エコシステム強化事業」にも採択いただき、活動の幅を広げています。
2022年、飼料原価高騰が養豚農家を直撃。
そして一つのアイデア。
「厳しい労働環境」と「担い手不足」は、私たちはDXソリューションによって解決に向けて取り組んでいます。
しかし2022年、世界規模の原油価格上昇が、飼料高騰というかたちで日本の養豚農家を直撃しました。飼料の約90%が海外からの輸入と言われていて、これから数年間、養豚農家は「豚を売れば売るほど赤字になる状況だ」と漏らします。
そこで、あらためて注目されているのが食品残渣の活用。お弁当や惣菜の残り、麺類、酒の搾りかす、米菓などその種類はさまざまです。雑食の豚を起点とした循環型農業に向けた取り組みです。
こうした餌の課題に対して、私たちなりにできることはないか。
社内プロジェクトを立ち上げ、飼料問題の解決に注力することにしました。はじめての会議、ある事例がスタッフから紹介されました。
「浜辺に流れ着いた海藻を、豚の餌として活用する取り組みがあります。しかも資源を有効活用するのみならず、海藻を食べた豚はよく育ち、口溶けの良い美味しいお肉になったのだとか」
このとき私の脳裏には、ひとつのアイデアが浮かんでいました。
2017年11月29日 イイニクの日。
創業時からの構想。
話は少しだけ過去に戻ります。私は学生時代にNGOに所属し、世界の食料問題や環境問題解決のため、日夜奮闘していました。卒業後はコンサルティング会社に所属し、AIを活用した業務効率改善プロジェクトなどに関わっていきます。しかし40歳を間近に控え、子供ができたときに「このままで良いのか」と自問しました。
「子供たちの未来のためになる仕事をしたい」
「今こそまた、食料や環境の問題に取り組もう」
そして、平成29年11月29日(平成唯一の「ニクイイニク」の日)に株式会社Eco-Porkを創業したのです。
私の学生時代の仲間に、のちにユーグレナを立ち上げる出雲充氏がいました。出雲氏は一貫して食料・環境問題に取り組み続けていました。Eco-Pork創業時、ユーグレナ社はすでに東証1部上場をはたし第1回日本ベンチャー大賞を受賞、ヘルスケア事業のみならずバイオ燃料事業などにも取り組み、社会課題解決を目指していました。
Eco-Porkの創業時、あるイベント会場で出雲氏から声をかけられました。
「神林、食料問題をやっていく覚悟はできたか?」
「おう」
この時、私は「Eco-Porkは養豚現場の最適化のみならず、豚を中心とした循環型経済圏を共創していく」という構想を胸に抱いており、「ユーグレナ社はそのために欠かせないパートナーになる」と予感しました。
段ボール1箱分のユーグレナ、
届いたのは地球環境への思い。
話は戻り社内会議での飼料問題の解決についての議論。
ユーグレナ社は、59種類の豊富な栄養素を含むスーパーフード「ユーグレナ」を、持続可能性を配慮した製法で生産しています。そして人間のみならず鶏や魚や海老などにも餌として活用する研究を行っていることが思い出されました。
「ユーグレナを餌として豚に与えてみよう!」
海藻の事例を紹介してくれたスタッフ、和田はメガバンクからEco-Porkに転職したばかり。しかしながら銀行員時代に培った交渉力やきめ細やかな業務推進力は非常に頼もしいものでした。その和田をユーグレナ社との取り組みの推進担当に任命しました。
「ユーグレナを養豚に活用できないでしょうか」
和田からの打診に、ユーグレナ社は早速サンプルを送ってくれました。
それは段ボール1箱分の、ユーグレナ社基準で未利用判断となったユーグレナ粉末。急いで送ってくれたのでしょう、梱包は最小限のものでした。
この素早い対応に、私たちは期待の大きさを実感しました。
ユーグレナ社から提供いただいたユーグレナ粉末。一般小売用の3.5gパッケージに入っていたため一包一包手作業で開封、粉末を取り分けていきます。休日、3名体制で丸一日かけて、ユーグレナ豚の誕生を夢見ながら、黙々と作業。ついに給餌に値する3,000gのユーグレナ粉末を確保、豚への給餌の準備が整いました。
当社「Porker」を使用いただいている2農場で、通常の餌にユーグレナ粉末を混ぜたものを、豚に与えてもらいました。
気が気でなかった和田は、毎日、農場に電話していたようです。
「豚はちゃんと食べてくれていますか?トラブルは起きていませんか?」
「大丈夫!普段どおり食べてるよ!餌のタンクが緑色になってしまって、洗うのが大変だけどね(笑)」
そして一定期間のテスト給餌を経て、はじめてのユーグレナ豚が出荷されたのです。
2022年秋。
命名、「ユーグレナEco-Pork」
ユーグレナは植物と動物両方の性質を持った微細藻類と呼ばれる小さな小さな藻です。人間に必要とされる59種の豊富な栄養素、ビタミンやミネラル、アミノ酸、DHA、オレイン酸などの不飽和脂肪酸、特有成分パラミロンなどを備えるほか、細胞壁をもたないため、栄養の消化吸収率も高い特長があるスーパーフード。
これが豚にどういう結果をもたらすか。
出荷されたばかりのユーグレナ豚の分析結果が、2週間後、専門機関から届きました。
ユーグレナを給餌した豚は、同農場のユーグレナを非給餌の豚と比較して100gあたりのカロリーや脂肪低く抑えられているという傾向がありました。
ユーグレナによって、豚が健康になり、その豚肉を食べた私たちも健康になれる。しかも低カロリー。
私たちはほっと胸を撫で下ろすとともに、興奮を抑えることができませんでした。
こうして、「ユーグレナEco-Pork」が誕生しました。
2022年11月29日、イイニクの日。
嵐のBBQ、素晴らしい船出。
2022年11月29日、イイニクの日。
私たちは毎年この日、社員の慰労と翌年の活動の決起大会を行っています。
この機会に、出荷されたばかりの「ユーグレナEco-Pork」を、都心のバーベキュー会場に持ち込み、全社員で試食してみることになりました。環境によくたって、美味しくなければ仕方がありません。
当日の天候はあいにくの大雨。屋根のあるバーベキュー会場でしたが、強い雨と風が吹き込み、なにか不安な気持ちになるようなそんな夕方でした。
とにかく食べてみよう、挨拶もそこそこにバーベキュー台に大胆にカットしたユーグレナEco-Porkを並べて焼き始めました。不安と期待が入り混じる中、炭のパチパチ鳴る音とともにこんがり焼ける肉の匂いと煙が立ち上ります。
皿に盛って、大胆に食べる。
その味は...「うまい!」
しっかりとした肉質とほどよい脂。あっさり上品でくどさを感じさせず、軽やかながら味わい深い仕上がりです。どれだけ食べても「もっと欲しい!」、そう思わせる豚肉。
皆が、これは美味しい!と声を上げます。
「これは、いける。」
懇意にしている料理研究家の方にもご参加いただき、ローストポークや蒸し焼き、プルドポークなど、豚肉の味わいを最大限引き出すような、さまざまな料理をふるまってもらいました。
そのどれもが、最高の美味しさでした。お肉はしっかりした味わいながらもあっさりしていて、脂身は上品で、どんな料理でもちゃんと豚が中心に存在していました。
調理を担当いただいたアンドレシピさんは、「豚肉らしい味わいに、付加価値が加わることで、美味しいだけではない、体のためにもなる食材ですね」と高く評価してくれました。
夕方から始まったBBQも、陽が傾くにつれ雨も弱まり、焚き火のまわりに人が集まりはじめます。語り合う人、歌う人、笛を吹く人(?)などさまざま。みな、笑顔でした。
私はこの光景を見て、「お肉を囲んで仲間たちと過ごすかけがえのない時間を、子供や孫の世代までちゃんと守っていきたい」と、決意を新たにしたのです。
ユーグレナ社から、R&Dセンター副センター長の横山氏とCTO鈴木氏が駆けつけてくれました。鈴木氏は学生時代に出雲氏と私と同じNGOのメンバーでした。ユーグレナ社の創業メンバーの一人であり、比内地鶏へユーグレナを給餌するプロジェクトを率いた人物です。
横山氏と鈴木氏と私は一緒にユーグレナEco-Porkの誕生を喜び、その味に舌鼓を打ちながら、これからの取り組みや夢を語り合いました。