後継者不足、人手不足、飼料高騰などの要因による養豚場の経営難。畜産業において排出されるCO2。水や飼料の大量消費。
こうした養豚業における経営環境や高い環境負荷を背景として、本物のお肉から培養肉や代替肉への移行が注目を集めています。
「本物の肉の美味しさ・食べる喜びの価値を尊重し、本当に美味しい豚肉をいただく食文化を次世代へ繋げていきたい」
私たちはこの思いで約6年間、養豚農家に対するDXソリューション提供を進めてきました。
そして2023年4月。
「全国各地の養豚農家とお客様をダイレクトに繋ぎ、その価値を伝え、そこで生産される肉の美味しさをという価値を高め、お客様にお届けする」
という取り組みに、挑戦します。
美味しさの可視化、養豚の未来。
はじめまして。Eco-Porkの和田と申します。
2022年12月、豚枝肉取引規格が26年ぶりに改正され、出荷時の適正重量が時代にあったものに更新されるとともに、「美味しさの目安と言われるオレイン酸の測定を、個別の農場・豚ごとに実施していく」というニュースが飛び込んできました。
豚肉の美味しさの可視化は、消費者にとってはもちろん、生産者にとっても大きなチャンス。ブランド力向上に繋がる可能性があります。
Eco-Porkは従来の養豚DX事業に加えて「一般のお客様に向け日本各地の美味しい豚肉をお届けする」プロジェクトが始動しました。
お取引のある全国約80もの農場のなかから、真っ先に白羽の矢が立ったのが「鬼や福ふく」でした。一般小売をほとんどされておらず、そのブランド名はあまり知られていないものの、しっかりとした養豚や環境への取り組みをされている養豚農家です。
大寒波到来。鬼の話、豚の話。
2023年1月。
Eco-Porkスタッフが「鬼や福ふく」を訪問しました。
所在地は新潟県の魚沼。
おりしも大寒波が到来。越後湯沢駅からの在来線はすべて運休しており、スタッドレスタイヤの慣れないレンタカーで、時おり吹雪に見舞われながら山道を向かうこと数時間。
なぜ「鬼」なのか。昔(そして現在も)農場でとうもろこしを生産していたところ、一晩で一畑が熊に食べ荒らされる事があり、どうしたものかと悩み、導き出されたのが「鬼もろこし」と言う名前。熊よりも勇ましい名前を付ければ熊が怖がってより付かなくなるのではないかと考えた、先代の社長が命名したとのこと。
そして農場で育てられる豚にも「鬼の宝ポーク」の名称をつけられたとか。
「鬼の宝」って良い名前の豚だな、などと思いを巡らせる道中。
そして、大雪の中、「鬼や福ふく」の豚舎が見えてきました。私たちを温かく出迎えてくれたのは、島田社長。
ご案内いただいた豚舎は、環境、餌、衛生管理、こだわりと豚への愛がたっぷりと詰まっていました。
効率よりも愛情を優先。
「飼育されている豚たちには、心地よく過ごしてもらいたい、人生(豚生?)を謳歌してもらいたいという想いで、2009年にオランダからフリーストールを導入しました。自由に動き回るフリーストール飼いは、1頭1頭の管理がしにくくなります。しかし、たとえ非効率でも元気に生き生きと育ってほしい。ストレスのない環境で育てば、お肉もより美味しくなるに違いない」
そう語る島田社長は柔和な表情ながら、眼鏡の奥の眼からは強い決意と、限りない豚への愛情が滲み出ていました。
私たちは驚きました。「いくつもの養豚場を見てきましたが、鬼や福ふくで飼われる母豚は1-2割大きいですね」
島田社長が嬉しそうに答えます。「柵がないぶん、豚たちは好きなように動き回り、好きな時に餌を食べて、寝たい時に寝る。ストレスが無いから、大きく、健康に育っています」。
飼われている豚は約1500頭。島田社長とスタッフ藤井さんの2名で、すべての面倒を見ています。毎日同じように巡回し、同じように餌を与え、同じように健康をチェックする。気の遠くなるような繰り返しが、この豚と人との信頼関係を生んでいるに違いありません。
「いただきます」へ込めた思い。循環型農業と自然への感謝。
鬼や福ふくは長年、お米の収穫栽培を生業に代々続いてきた農家です。そんななか、四季を通して循環的に生産していく方法はないかと考えられたのが養豚でした。
養豚によって出る堆肥を活用すれば、休耕期間を設けることなく一年中農業ができる。こうして現会長である島田福一さんが1973年に、島田農園という屋号で畜産を始めました。
そして、20代目の島田福徳社長が2019年に「鬼や福ふく」として法人化。2020年には当社の養豚管理支援システム「Porker」を採用いただきました。一頭一頭の体格や健康管理などを的確に行い、安心安全で美味しい「鬼の宝ポーク」を作っています。
島田社長は養豚で出る堆肥で、「鬼もろこし」という甘みいっぱいのコーンを生み出しました。ほかにも「鬼の宝にんにく」や「魚沼産コシヒカリ」など、循環型農業に取り組んでいます。豚を本来あるべき姿でのびのびと育て、自然の摂理にそって恵みを大地へ還し、新たな作物を生み出していく。
「いただきます」にも通じる、自然への畏敬の念をもって、取り組んでいます。
島田社長は話します。
「これからも未来永劫、養豚を続けていきたい。いまの子どもたちが大人になった時にも、美味しい豚肉を食べられる環境や食肉の文化を残していきたい」